女神降臨
今日の夕方、地元のS銀行の人(若くてキレイなお姉さん)がやってきて、「為替特約付き外貨定期預金を当行でも始めたので、よかったら申し込まれませんか♡」 (^_^) と勧められました。
わたしは為替のことはよく分かりません。
FXもしたことがありません。
株と違って変動要素が多すぎて値頃のめどがない為替は、つかみどころがなく、自分と違う世界のものと思えました。
ですがいちおう商品説明を聞いてみました。
こういうことのようです。
特約付き外貨定期預金
【以下、ご説明】
「外貨は、米ドルまたはオーストラリアドル。
申し込みは10,000通貨単位以上。(今なら米ドルで106万円以上)
預入期間は、半年。
いずれも年利1%を保証します。
手数料の高いふつうの外貨預金と違って、ドルにするのも円に戻すのも手数料はかかりません。
でも問題は、為替変動ですよね♡。
その点、この商品は特約で、▲7円の円高まで補填いたします。
それ以上の円高の損失は取っていただきます。
逆に円安になった場合の利益は一切ありません。
その点は、ご了解ください♡」
女神の純真
「外国の金利は日本よりかなり高いといいますよね。どれくらいですか?」と聞いてみました。
「だいたい2%くらいでしょうか。でも今、アメリカも利上げの方向に動いていますので…。」
お姉さんは、言わなくていいことまで言ってしまう正直者のようです。
タイプです。
華奢でキレイで率直で、好感が持てます。
ようく考えてみました。
なぜ銀行は、定期預金が0.01%の時代に金利1%保証の商品を「親切に」勧めてくれるのでしょう。
スキーム
【スキーム1】年利のピンハネ
本来年利2%の外貨から年利1%をピンハネして商品を提供している。
まず、銀行は人のふんどしで年利1%を安定的に得ることができます。
【スキーム2】為替リスクと為替利益のアンバランス
▲0円~▲7円までの限定された損失は銀行が負担する。
一方で、大きい損失(それ以上の円高)は顧客に押しつけ、大きい利益(すべての円安)は銀行が総取りする。
円高に振れて▲0円~▲7円の場合だけ、顧客は特約で損失を補填されます。
これは平均して▲3,5円分だけの ごくわずかな負担です。
これに対して、10年前のようにドル円が106円から80円まで円高になったらどうでしょうか。
わたしは、基本的に為替はどこに行くかまったく分からないと認識しています。
仮にそうなったら、19円分の莫大な損失は顧客がかぶり、また106円に戻る日まで10年でも待つほかありません。たった1%の年利をもらいながら。
一方で、円安になったら、青天井の利益はすべて銀行のものです。
しかも、先のことはわからないとは言え、当面はアメリカの利上げ方向が見込まれている中での半年間の設計です。
これだけ銀行に有利なら、手数料無料と最大7円の損失補填くらいは訳ないのかもしれません。
「特約」とは、「円高の損失補填が一部あるので安心」なのではなく、「お客様の損で銀行が必ず儲かる確率的に不公平な賭け」のことだったんです。
「1%の年利」に喜んでしまうような 気のいい人だったら、きっと簡単にだまされてしまうことでしょう。
公平な商品なら
本来、公平な商品にしようと思えば、次のいずれかです。
①年利は1%。(1%は銀行がピンハネする。)
円高による損も、円安による利益も、すべて銀行が吸収します。
お客様は年利1%だけをご享受いただけます。
②年利は1%。(1%は銀行がピンハネする。)
「▲7%~+7%」までは損失も利益も出ません。
その範囲は損失も利益も銀行が吸収しますので、為替損益のない安定域があるということです。
それ以上の円高はお客様の負担、それ以上の円安はお客様の利益です。
③年利は1%。(1%は銀行がピンハネする。)
円高はすべてお客様の損失、円安はすべてお客様の利益です。
①は、お客が殺到するでしょう。
ですが、リスクを嫌う銀行には何の得もない「ありえない」プランです。
②は、お客によっては惹かれると思います。
ですが、手数料無料で1%ピンハネでは銀行はひとつも面白くないはずです。
③は、単純すぎてFXにしたほうがましなのがすぐ見えるので、お客は惹かれないでしょう。
銀行も②と同様の理由で面白くないはずです。
ソフトなダマシ
このように、公平なプランを作っても銀行には意味がありません。
だから、冒頭のような「▲7円までの補填」など錯覚しやすいダマシのスキームを工夫するのです。
「1%の年利が素晴らしい」のは元本保証の預金や債権の場合であって、他の大きなリスクがあるのなら、年利1%など顧客にとって何の意味も無いと言うことです。
ましてやこんな片手落ちのリスクなど論外です。
そんなリスクを取るなら、FXで格安の手数料で2%のスワップ金利をもらったほうが はるかにまし なことは、③以上に自明です。
銀行側の立場なら逆になります。
特約付き外貨定期預金は、「銀行側の立場に立つなら」よくできた商品であり、魅力的なポジションです。
きっと素人相手にコンスタントに収益を積み重ねることでしょう。
わたしはその周到さに感心してしまいました。
優良企業
S銀行は、昔から官庁密着の指定金融機関、しかも今では東証一部上場。
地元では一流の、いちばん信頼されてきた銀行です。
わたしも就職してから今までいちばん利用してきた、身近な金融機関です。
経営状態も最高のはずです。
ビッグバンで証券会社との垣根がなくなって以来、弱いお客をむしって太ろうとするだけの先物会社のように落ちぶれてしまったんだなぁと、ちょっと悲しくなりました。
(↓こんな感じね)
女神の良心
でも「為替はよくわからないので、やりません。」と言ったとき、
「ハイ、わかりました (^_^)w」と瞬速で引いてくれたお姉さんの、ちょっとホッとしたように見えた表情に、なにか救われた気がしたのでした。